世界の賢人たちが描くAIの未来予測、5人目。ここまで「数百年先」まで見てきましたが、次の人物からは時間軸がぐっと近づき、「数十年先」に入ります。AI時代を語るうえで最も重要なキーワードの一つ「シンギュラリティ」——その概念を世に送り出した数学者・SF作家、ヴァーナー・ヴィンジ氏です。
ヴァーナー・ヴィンジとは
ヴァーナー・ヴィンジ氏(1944年〜2024年)は、アメリカの数学者・計算機科学者であり、SF作家でもありました。サンディエゴ州立大学で数学の教授を務めるかたわら、SF小説『遠き神々の炎』でヒューゴー賞を受賞するなど、科学とフィクションの両方の世界で活躍した人物です。
そんなヴィンジ氏が1993年に発表した論文「The Coming Technological Singularity(来たるべき技術的特異点)」は、AI議論の流れを大きく変えました。
「シンギュラリティ」とは何か
シンギュラリティ(技術的特異点)とは、人間を超える知能が生まれることで、その先の未来が人間には予測不可能になる瞬間を指します。
ヴィンジ氏はこの概念を、ブラックホールの中心にある「特異点」にたとえました。ブラックホールの内側を外から見ることができないように、シンギュラリティの「向こう側」は、いまの人間の知性では見通すことができない——というわけです。
彼が描いた超知能への到達経路は、主に4つあります。
| 経路 | 内容 |
|---|---|
| 超知能コンピュータの開発 | 人間を超える知能をもつAIが直接作られる |
| コンピュータネットワークの「覚醒」 | 大規模ネットワーク全体が超知能的な存在になる |
| 人間とコンピュータの融合 | 脳とコンピュータの接続により、人間の知能が飛躍的に拡張される |
| 生物学的な知能の強化 | バイオテクノロジーにより、人間の脳そのものが強化される |
そしてヴィンジ氏は、この論文の中で大胆な予測を残しています。「30年以内に、超人的な知能を創り出す技術的手段が手に入るだろう」と。1993年からの30年——つまり2023年頃です。
「予測できない」と宣言した誠実さ
ヴィンジ氏の考えで最も独特なのは、「予測しない」ことを明確に宣言した点です。
テグマーク氏は12のシナリオを描き、モラベック氏はロボット進化の段階を示しました。しかしヴィンジ氏は、「シンギュラリティの先を予測することは、原理的に不可能だ」と言い切りました。見通せないからこそ「特異点」なのだ、と。
ヴィンジ氏は2024年3月に79歳で亡くなりました。自らが予測した時期を迎え、AIの急速な進化を目の当たりにしながら。彼が残した「シンギュラリティ」という言葉は、いまや世界中で使われています。
ひとこと
「シンギュラリティの先は予測できない」「未来はこうなる」という専門家が多いなかで、「わからない」と言い切っています。私のような凡人にわからないのは当然かもしれないと思ってしまいました。
次は、そのシンギュラリティという概念を引き継ぎ、さらに発展させた人物です。「シンギュラリティは2045年に来る」と具体的な年表まで示した未来学者、レイ・カーツワイル氏を見ていきます。
参考・引用元
- Vernor Vinge “The Coming Technological Singularity: How to Survive in the Post-Human Era” NASA VISION-21 Symposium, 1993年
- ヴァーナー・ヴィンジ 著/中原尚哉 訳『遠き神々の炎(上・下)』東京創元社、1995年(原著 A Fire Upon the Deep, 1992年)——ヴィンジ氏のSF小説。シンギュラリティ的な知性の進化を描いた代表作
※本記事は、公開されている著書・資料をもとに、その内容を要約・紹介したものです。予測はあくまで各人物の見解であり、将来を保証するものではありません。
