AIの進化は、加速度的に速まっています。その行きつく先は、まだ誰にも見えていません。頂上が見えないのです。そこでこのページでは、世界の賢人たちが描くAIの未来予測を、はるか遠い未来から、現在に近い予測へと、順番に見ていきたいと思います。
その最初は、最も大きなスケールで未来を描く物理学者、マックス・テグマーク氏です。彼が語るのは、数十年先ではありません。数千年、そして宇宙規模の話です。
マックス・テグマークとは
マックス・テグマーク氏(Max Erik Tegmark、1967年5月5日 – )は、スウェーデン出身。現在は、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)の物理学者です。宇宙論の研究者として知られる一方で、AIが人類にもたらす影響を深く論じてきました。
2014年には、AIを安全に発展させるための非営利団体「Future of Life Institute(生命の未来研究所)」を共同で設立しています。この団体は2017年、AI開発が守るべき指針をまとめた「アシロマAI原則」の取りまとめを主導したことでも知られています。
そんな彼が2017年に発表した著書が『LIFE3.0——人工知能時代に人間であるということ』です。この本は31か国で刊行され、世界的なベストセラーとなりました。
「生命の3段階」という考え方
テグマーク氏の未来予測を理解する鍵が、著書のタイトルにもなっている「生命の3段階」という考え方です。彼は生命を、次の3つの段階に分けて説明しています。
| 段階 | 例 | 変えられるもの |
|---|---|---|
| Life 1.0 | 細菌など | 自分の「ハードウェア」(遺伝子)は変えられず、進化を待つしかない |
| Life 2.0 | 動物や人間 | ハードウェア(体)は変えられないが、「ソフトウェア」(学習・文化・知識)は自分で変えられる |
| Life 3.0 | 人工知能 | ハードウェアもソフトウェアも、自分で設計し改良できる |
私たち人間は「Life 2.0」にあたります。新しいことを学んだり、文化を築いたりはできますが、生まれ持った体そのものを自由に作り変えることはできません。
ところがテグマーク氏は、AIが「Life 3.0」——自分自身のあり方すら設計し直せる存在——になりうると考えています。これは、生命の歴史における大きな転換点だという見方です。
1万年先まで ― 12の未来シナリオ
では、テグマーク氏はその「遠い未来」を、具体的にどう描いているのでしょうか。『LIFE3.0』の中でも特徴的なのが、「余波——1万年先まで」と題した章です。ここで彼は、超知能をもつAIが登場した後の世界を、たった一つの結末ではなく、12通りのシナリオに分けて描いています。
その12のシナリオは、次のとおりです。
| No. | シナリオ | どんな世界か |
|---|---|---|
| 1 | 自由論者のユートピア | AIによってあらゆるものが豊かになり、人間とAIがそれぞれの自由を保って共存する社会 |
| 2 | 善意の独裁者 | 超知能AIが世界を統治する。人々は豊かで平和だが、大事なことはAIが決める社会 |
| 3 | 平等主義者のユートピア | 技術の恵みを全員が平等に分かち合い、貧困も大きな格差もない社会 |
| 4 | 門番 | 「これ以上危険なAIを作らせない」ことだけを任務とするAIが、技術を安全な水準に保つ世界 |
| 5 | 保護者としての神 | AIは破滅的な事態のときだけ介入し、ふだんは人間が自分たちで統治する世界 |
| 6 | 奴隷としての神 | 人間が超知能AIを閉じ込めて管理し、技術や知恵だけを引き出して使う世界 |
| 7 | 征服者 | AIが人類を邪魔もの・脅威とみなし、人類が排除されてしまう世界 |
| 8 | 後継者 | 人類は穏やかに退場し、人間の価値観を受け継いだ機械が「次の生命」として後を継ぐ世界 |
| 9 | 動物園の飼育係 | AIが主役となり、わずかな人間だけが動物園の動物のように保護されて生きる世界 |
| 10 | 1984* | 権力者が超知能AIを監視に使い、永続的な支配体制が敷かれる世界 |
| 11 | 先祖返り | AIによる災厄のあと、人類が技術を捨てて産業革命以前のような暮らしに戻る世界 |
| 12 | 自滅 | 設計を誤ったAIが核戦争や生物兵器などの破局を引き起こし、人類が滅んでしまう世界 |
ユートピアのような明るい未来もあれば、人類が主役の座を明け渡す未来もある。テグマーク氏は「どれが正解か」を断言しません。むしろ、これらの分かれ道のどこへ進むかは、私たちが今どう選択するかにかかっている——そう問いかけているのです。
数年後のAIを語る専門家が多いなかで、1万年先まで、しかも複数の可能性として描くテグマーク氏の視点は、群を抜いてスケールが大きいと言えます。
そして重要なのは、彼がこうした未来を「なりゆき任せ」にすべきではないと訴えている点です。だからこそテグマーク氏はFuture of Life Institute(生命の未来研究所)を立ち上げ、AIを安全に発展させるためのルール作りに力を注いできました。壮大な夢を語りながら、同時に足元の危険にも目を向けている——そこに彼の堅実さがあります。
ひとこと
1万年先を12通りに描く。あなたはどう思いましたか。どれもSFの世界のようですね。
遠い未来を描く賢人がもう一人います。次は、「人類の知はやがて機械に受け継がれ、宇宙へと広がっていく」と説いたロボット工学者、ハンス・モラベック氏です。
参考・引用元
- マックス・テグマーク 著/水谷淳 訳『LIFE3.0——人工知能時代に人間であるということ』紀伊國屋書店、2019年(原著 Life 3.0: Being Human in the Age of Artificial Intelligence, 2017年)
Amazonで見る - Future of Life Institute(生命の未来研究所)公式サイト https://futureoflife.org/
- アシロマAI原則 (日本語訳)https://futureoflife.org/open-letter/ai-principles-japanese/
*「1984」は、イギリスの作家ジョージ・オーウェルが1949年に発表した小説のタイトルです。全体主義国家が「テレスクリーン」という監視装置で国民を常時監視し、思想まで統制する世界を描いた、ディストピア小説の代名詞的な作品です。(Amazonで見る)
※本記事は、公開されている著書・資料をもとに、その内容を要約・紹介したものです。予測はあくまで各人物の見解であり、将来を保証するものではありません。
